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 ふまねっと運動とは、50センチ四方のマス目でできた大きな網を床に敷き、この網を踏まないようにゆっくり慎重に歩く運動です。
 マス目を利用したステップがたくさん用意されており、このステップを間違えないように「学習」しながら歩行のバランスを改善する「運動学習療法」です。集団で交差して歩くこともできるので、レクレーションとしても楽しむことができます。

 ふまねっと運動は、車いすや杖歩行の方でも参加ができる、ユニークな介護予防運動プログラムです。一日に数十歩しか歩けない方々の、一歩一歩を貴重な運動資源として、大切にしたいと考えた末に開発されました。ふまねっと運動は、筋力向上を目指す従来型の運動プログラムではなく、からだの動きに注意を集中させて、全身のバランスや認知機能を向上させることを目的とした「運動学習」を重視したプログラムです。

正会員としてご指導いただくようご理解をお願いしています。
 このふまねっと運動は、とても単純な運動のため、多くの方が「簡単だ!」と早合点して、自分の経験と先入観にもとづいて、自己流で進めてしまう傾向があります。しかし、それは参加者が減り、継続を難しくする結果を招きます。そうなると、せっかく買ったふまねっとが、倉庫でほこりをかぶったままに・・・・泣。
 そのため、私たちはこのふまねっと運動の新しい理論と魅力を伝え、楽しさを体験してもらい、安全と継続のための指導法を十分理解していただいた方にふまねっとを頒布することにしました。ふまねっとをご購入いただくためには、施設や団体の中のどなたかが必ずふまねっとサポーターか、ふまねっとインストラクターの資格を取得していただく必要があります。それによって、正しく、効果があり、継続につながる、楽しいふまねっと運動を広げていくことができるのです。そうすることによって、私たちは高齢者の健康と歩行機能の改善、社会参加の拡大に貢献して参りたいと希望しております。
 「ふまねっと運動のもっとも大きな魅力は、負荷の少ない運動を短い時間おこなうだけで、歩行機能を改善する効果がある点です。たとえば、要介護2程度の方々を対象とするケースを考えてみましょう。この場合は、1回50歩から100歩程度の歩行運動を週に1回、約30分から60分かけて練習することで、4週間後には歩行速度や歩幅が10%程度改善することを目標にしています。
 老健施設の通所利用者50名を対象に、平成19年の8月から9月にかけて、週に1回、60分から90分のふまねっと運動を行った結果、Timed Up & Go という歩行機能測定で、歩行速度、歩幅、歩数において平均9%の歩行機能の改善が見られました。詳しい報告は、『精神看護』2008年7月号p68-77でも紹介されています。

 なぜこのように短期で歩行機能の改善効果が現れるのでしょうか。研修は続いて理論の説明に移ります。ところでふまねっとの理論は、これまでの実践の後を追うようにして仕上げてきたものであり暫定的です。現時点では、およそ表1に示すように考えています。ひと言で言えば、ふまねっと運動は、筋肉を鍛える運動ではなく、「学習」を目的とした運動であるということです。新しいステップ課題に必要な足の動かしかたを、身体各部の末梢の筋組織と中枢神経組織の両者が互いに協調しながら習得していく運動です。この新しいステップ課題を習得していく過程で、末梢組織群と視覚をはじめとする中枢神経機能の相互協調作業が改善して、歩行時に必要となる左右への「重心移動」の調節能力を向上させることができるのではないかと考えています。
 一般的に行われているマシン系の筋トレと比較してみましょう。筋トレはおもに「末梢」の筋組織の収縮力を向上させるのが目的です。筋トレでは、末梢組織を肥大させるのに必要な運動負荷を与えるため、誰でも簡単にできるような「単純動作」を選び、これを必要な回数だけ「反復」するという方法をとります。この時、筋トレが重視するのは、負荷の「大きさ」と「回数(頻度)」、そして「休息(インターバル)」であり、中枢の運動調節機能の改善をあまり含んでいません。いいかえると、筋トレは運動負荷の「量」を重視していると言えます。
 これに対してふまねっと運動では、「またぎ越し運動」や「ステップ」という「未経験の運動課題」が与えられ、これができるようになるまでの「学習」が主な目的となります。この時、ふまねっと運動が重視するのは、あみをふまずに歩けたか、正しいマスを選択したか、左右の脚を正しくだしたか、そして正しい順序で脚を動かしたかなどの「正確さ」です。ふまねっと運動は、「ただやみくもに歩けばいい」というのではなく、「どこをどう歩いたか」について、動きの正確性を問うものであり、いわば運動の「質」を重視していると言えます。
 ふまねっと運動では、新しいステップができるようになるまで、四苦八苦する学習過程を通過します。参加者にとって、この学習過程はとても楽しく感じられるようです。頭でわかっていても、からだが思うように動かないズレを発見するからです。ところが、逆にステップができるようになってしまうと、その繰り返しは退屈に感じることがあります。そこでこのような段階になると、ふまねっと運動では次の新しいステップ課題に移っていき、また失敗しながら運動の「学習」を継続するのです。
 このふまねっと運動が重視する「学習」は、末梢の筋組織の収縮調節だけでなく、高次の中枢神経機能の記憶や重心の移動調節を含んでいると考えています。一般的な生理学用語を使っていえば、ステップのイメージと記憶、あみの位置と足の位置の認識を行う視覚感覚、大脳皮質の運動野と感覚野、そして全身の末梢筋組織との間の「相互協調作業」が意図したとおりに連携すると、ステップ課題ができるようになるのではないかと考えられます。そして、この過程で歩行時に行われている左右のこまかな重心移動の調節能力が向上し、からだのバランス機能が改善すると考えられます。

【表1】従来型筋トレとふまねっと運動との比較対照表
比較項目 筋トレ ふまねっと運動
運動の種類 同じ運動の「反復」 未経験の運動の「学習」
重視する点 運動の量:負荷、頻度、休息 運動の質:正確さ、タイミング
注目する部位 末梢組織の筋肉の肥大 中枢神経と末梢筋組織の協調
解決方法 筋肉の「力」で解決する 動きの「巧みさ」で解決する
最低必要量 一万歩 一歩
動機付け 意欲を高める動機付けが必要 楽しいため自発的に参加する
(看護学雑誌 72(10),872〜880,2008より抜粋)


 筋力向上を放棄した結果、ふまねっと運動が得た収穫には豊かなものがありました。
 まず第一に、安全な運動プログラムであること。私が60歳代から80歳代の地域住民を対象にふまねっと運動の健康教室をはじめて3年以上が経過しましたが、これまで延べ八千人以上の高齢者が参加していて、一人も転倒や怪我がありませんでした。
 ふまねっと運動は、足の位置に注意して、丁寧に、慎重に、網をよく見て、「ゆっくり」歩きながら新しいステップを学習する運動プログラムです。そのため、ジョギングなどの運動になれた方には、ふまねっと運動は疲労感が少ないので物足りないと感じるようです。しかし、その反面、車いすや杖歩行の虚弱の方々も参加することができる負荷の軽い安全な運動プログラムができました。
 そして第二に、一つの運動プログラムが、ステップを「教える人」と「教わる人」の間に、また「教わる人」相互の間に、失敗して笑ったり、成功してほめてあげたりするなどの交流とコミュニケーションを生み出すツールとなりました。初対面の人が参加する健康教室でも、すぐに緊張がゆるんで会話がはずむようになります。
 病院でも福祉現場でもアイスブレーキングの重要性に対する認識は広がっていますが、職員がこれを上手にこなすのはなかなか難しいのが現実です。ところが、ふまねっと運動では、とても簡単に緊張を解くことができるので、忙しい福祉現場の職員の心理的負担を減じることができます。患者が思わずステップを間違えたり、ステップを忘れてしまうから、そこに看護師と患者の自然なコミュニケーションが生まれます。
 いつも、看護師が患者に教える役をはたすとは限りません。患者が先にできて、職員が教わることもあります。患者さんが誇らしく、患者と職員の間で、ステップを教えたり、教わったりするコミュニケーションが生まれるのです。ですから、患者さんがステップをすぐに覚えないことも、あるいは逆に、職員がステップを間違えることも、コミュニケーションが長続きしていいのです。
 第三に、ふまねっと運動は、「ケア」や「サポート」をいわば無理強いされている高齢者のポテンシャルを引き出して、社会で活躍する場を提供することに成功しました。無理強いとは、次のような意味です。私たち健常者や、現在の社会的制度には、高齢者を「何らかの支援を必要としている」存在として一方的に決めつけているところがあります。国や役場が高齢者を対象に設ける制度や講習会では、たいてい高齢者を「自立心が乏しく」、「いつも保護を要求していて」、「意志が弱く」、なんらかの「意識改革」が必要で「無知」な人々を想定しています。そして高齢者がどのように生活(食事!、運動!、歯磨き!)するのが正しいかを知っているのはいつも役場の職員の方で、なんとかしてそれを彼らに教えて「啓発」しなければならないと本気で考えているようなのです。
 ところが、実際にはそのような人はほとんどいません。私が地域で出会う高齢者は、役場の職員が想定しているよりはるかに有能で、清らかで、力強くて、頼りがいがあるのです。私が高齢者を対象に、ふまねっと運動の指導者の養成事業を始めたところ、北海道の東部の過疎地において、自らの力と負担で地域の健康づくり活動に取り組む高齢者の方々がたくさん登場しました。そこでは、ふまねっと運動が人々をつなぎ合わせるツールとして役に立っています。(詳しい活動の一例については、北海道十勝の池田町社会福祉協議会が記録して下さっているブログhttp://pub.ne.jp/i_shakyoをごらん下さい。)
 ふまねっとは、もとはといえば、歩行機能や認知機能の改善のために作られたのではありません。私たちは当初、要介護認定を受ける高齢者を減らすためには、高齢者が人格を尊重されながら、能力を生かして活躍できるように、社会参加を実現することが必要であると考えました。社会の中でケアの対象となっている人が、ケアの担い手になるように、高齢者に対する社会の偏見(ageism:エイジズムといいます)を変えていき、社会の方向性を変えていく、人々の行動の変革や新しい価値観を提案していくための運動プログラムとして作られたのです。
 私は高齢者が介護状態になるのを防ぐためには、高齢者が元気で社会活動に参加できるようなしくみが必要だろうと思いました。そして、高齢者が社会福祉の「受け手」から「担い手」になれるように、社会的地位を向上させる必要があると考えました。そのために、私はふまねっと運動を使って、高齢者を「健康づくり活動の指導者」として養成しようと考えたのです。
 このような高齢者の社会参加の取り組みは、現在では全国で行われていますので、特に珍しいことではありません。ところが、私が考えた「健康づくり活動の指導者」は、これらの先例とは異なるものでした。例えば、財団法人健康・体力づくり事業財団が行うような、健康運動実践指導者の養成のように、高度に専門的な知識を身につけた運動の専門家を意味するものではありませんでした。運動の苦手な人でもできて、身体能力を問わない、ズッコケ型の、素人指導者を養成することを目指すものだったのです。
 なぜなら、専門家養成をやってしまうと、先ほど述べた身体能力の優劣で序列化する「レース」を促進することになり、マッチョ(筋力万能主義)が強化されてしまうからです。これは、社会の中からある一定の人々を排除するしくみです。どうしてもレースに参加してこない人々を作り出してしまうのです。
 その結果、私たちが作ったのは、運動経験のない主婦がエプロンを着けたまま、普段着で指導を担当できる運動プログラム「ふまねっと運動」だったのです。私たちがふまねっとを開発したとき目指したのは、短い講習で、身体機能や運動能力が低下した人でも指導者になれる運動プログラムでした。ふまねっとは、はじめから、序列化レースで底辺に位置づけられることを余儀なくされている高齢者を指導者としてプロモーションするために作られたのです。
 
初期のころのふまねっと(平成16年)

3列になったばかりのふまねっと(平成17年)

学生達のアイデアと地域住民の協力で成長

現在のふまねっとの原型(平成17年)

交流を生み出すツールとして開発される。

歩き終わったときにほっとします。

ひやひやしながら、ステップを習います。

ふまねっとサポーター養成講習会の様子。


地域の住民主体の健康教室。

学生のコミュニケーションスキルの向上とボランティア活動に。

かなりスリリングなレクレーションとしても。

衝突しないようにすれ違うステップです。

試作品のふまねっとでした。(平成16年)


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