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ふまねっと運動

ふまねっと運動の歩行機能改善効果と理論

ふまねっと運動には、歩行機能の改善と認知機能の改善効果が認められます。
歩行と認知機能の改善効果は、一つの同じ研究で観察されました。平均年齢76.4歳の高齢者を対象に、毎週1回、約60分程度のふまねっと運動を250歩程度行い、8週間続けたところ歩行と認知機能の改善が観察されました。

歩行機能は、タイムアップアンドゴー(Timed Up & Go、以下、TUG)という方法で測定しました。日本の健常な高齢者(65歳以上)のTUGの標準的な値は、およそ5.5秒から6秒です(大渕修一他『日本公衆衛生学雑誌』2010年)。
研究の結果、ふまねっと運動の「参加群」は、TUGの記録が平均8.5秒から7.5秒に短縮しました。つまり、ふまねっと運動に参加した8週間前後でTUGの平均タイムが約1秒短縮したことがわかりました。

 
歩行の改善効果

ふまねっと運動を行うと歩行が改善するのは、「左右の足に体重を移動する神経調節機能が改善するから」と考えられます。
まず、「歩行」とは何かについて、あらためて考えてみましょう。私たちは、「歩行とは左右の足への体重の移動である」と定義してみました。これは、私たちが日常的に歩いているところを観察するとわかります。歩きながら、全体重が右足、左足へと、交互に体重が移動しているのがわかります。

「歩行とは左右の足への体重の移動である」と定義できる。

歩行するためには、必ず左右どちらか一方の足に「100%の体重を移動」しなければなりません。まず全体重を右足に移動させたら、ただちに左足の「位置」を前に動かすのです。そして、今度はその動かした左足に体重を100%移動します。ここで体重が全部左足に移動したら、今度は体重がかかっていない右足を前に動かします。これができれば、その次の一歩も、つづけて動かせるようになります。
こうして、左右の足に交互に100%の体重を移動させる。これが歩行です。

歩行は多重課題運動

ところで、自分ひとり分の体重を左から右へ、一方の足から他方の足へ、100%移動するというのは、脳の中枢神経が行う高度な「神経調節」が必要な作業です。それは、全身の筋肉や関節の動きを調節しなければならない「作業」です。これは、脳の中枢神経による調節が必要となる「作業」です。これは、ふまねっと運動の中でも特に重要な理論になります。

今、どちらか片方の足に体重が全部のっているとします。そこから、もう片方の足へ体重を移動させるためには、上半身の右腕と左腕、下半身の右足と左足、腰や背中にある多くの筋肉が別々の収縮を行い、関節が別々の屈曲や伸展を行わなければなりません。
ここで調節が必要となる筋肉や関節の数は、腕や足の関節や筋肉の数を合わせた数です。人間の筋肉の数は600以上、関節の数は260あるといわれています。これらの中の必要な筋肉と関節の調節は複雑で膨大な作業です。

右足に体重を移動する時は、右足の筋肉や関節には体重を「のせる」調節を行います。この時、同時に左足の筋肉や関節には、左足から体重を「とる」調節を行う必要があります。つまり、右足と左足は、同時に反対の結果が生じるように、あべこべの調節(拮抗作用)を行う必要があるのです。
歩行が正しくできるためには、この左右の足のあべこべの動作が、タイミングよく、力の過不足なく、同期して、同じテンポでリズミカルに調節されなければなりません。
この神経活動は、脳や脊髄などの中枢神経と呼ばれる場所で行われます。ところが、高齢になると、この脳で行われる神経調節機能が低下してくると考えられます。その場合は、左右のどちらかの足へ体重を移動する調節が、必要なタイミングで機敏に働かなくなります。その結果、両足にべったりと、同時に体重をのっけた状態になってしまうのです。
両足に体重を均等にのっけて、しっかり両足でふんばって立ってしまうと、どちらの足も1ミリたりとも動かすことはできません。これが歩行の低下です。つまり、歩行の低下とは、左右の足へ体重を移動するための神経調節機能が低下することです。そうなると、両足で全体重を支えるように立つようになります。

それでは、歩行を改善するためにはどうしたらよいのでしょうか。それは、「左右の足への体重を移動する神経調節機能を改善する」ことが必要です。
そのために、ふまねっと運動は理にかなっています。なぜなら、あみを「踏まないように」歩くためには、あみを「またぎこさなければ」ならず、そのたびに必ず左右どちらかの足に体重を100%移動しなければならないからです。
歩行機能が低下した高齢者は、体重をどちらかの足にきちんと完全に移動しないまま、すりすりと床の上を歩くようになります。つまり、体重を両足にのせたままひきずって歩いてしまうのです。このような歩き方では、あみをひっかけてしまいます。またぎこすことはできません。これが、歩行の低下です。

このような歩行の低下になっている高齢者でも、ふまねっと運動の際には、あみをまたぐ時には、必ずどちらかの足を「軸足」として、そこに100%の体重を移動します。こうして、もう片方の足を上げてあみをまたぎこすのです。
その結果、片方の足に体重を100%移動することを繰り返すことになります。そのため、あみの「またぎこし」を行うたびに、「左と右の足への体重移動」が繰り返し練習し、学習されることになるのです。これによって、次第に体重の移動の改善につながり、歩行が改善すると考えられます。
したがって、ふまねっと運動を指導する際には、「左と右の足への体重の移動」に注目することが重要です。

さらにもう一つ、このあみの「またぎこし」をしている時に、注目してほしいことがあります。それは、あみをまたぎこす時に、当人が「あみに「注意」を傾けているかどうか」に注目することです。それが、歩行の改善だけでなく、認知機能の「注意」の改善にもつながるからです。